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オミクロン株とワクチン効果、小児への接種について

オミクロン株についての情報が徐々に揃ってきましたね。

14日のBBCニュースで英国内でオミクロン株に感染した人が亡くなった最初の症例が発生した、現時点で新規感染者のうち20%がオミクロン株によるものであり、ロンドンではその割合が44%を超えていると報じていました。また、オミクロン株感染者の入院が10名いるが、大半はワクチンを2回接種していると。

オミクロン株感染が拡大しているイギリスの現状をジャヴィド保健相は、「新型ウイルスとワクチンの競争のさ中」と言い表しています。

 

 

そのイギリスの英国保健安全保障庁(UKHSA:UK Health Security Agency)が12月10日に発表した「SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England」を見てみました。

上記の報告に載っているグラフを拝借します。オミクロン株による感染者が最初に確認された日を「0日目」として、様々な変異株による感染者数を表したものです。

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オミクロン株による感染者が増えている

左端の緑色の曲線がオミクロン株による感染者数ですが、急上昇していることが分かります。この報告書内ではオミクロン株が現在のペースで増え続けるなら、12月の中旬にもデルタ株による感染者数に並ぶことを指摘しています。ものすごい増え方ですよね。

また、家庭内での感染リスクですがデルタ株と比較して3.2倍とされています。

どうやら感染力は強そうです。

重症化や死亡にいたるリスクについて現時点で凶悪さを示唆するデータは出てきていないようですが、続報が待たれます。

治療については、実験レベルの話ですが、ファイザー社の飲み薬であるパクスロビドがオミクロン株の増殖を防ぐ効果があると14日にプレスリリースしています。臨床現場からの報告が待たれるところです。

 

では、ワクチンの効果についてはどうでしょうか?

下の図は新型コロナワクチン2回接種後からの週数と新型コロナウイルスの発症予防効果を示したものです。黒い四角■がデルタ株、グレーのまる●がオミクロン株に対してです。そして、赤で僕が囲った部分がブースター接種後2週間後の結果。

向かって左がアストラゼネカ社のワクチン、右がファイザー社のワクチンです。

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オミクロン株へのワクチンの効果

いずれのワクチンもオミクロン株への効果が下がっていますが、特にアストラゼネカ社での低下が目立ちますね。しかし、ブースター接種としてファイザー社のワクチンを接種することで予防効果は高くなっています。ジョンソン首相もTwitterでブースター接種を再三呼びかけています。

 

では、小児に対して新型コロナワクチンを打つことについて少し考えてみます。

まず、日本の現状ですが、12歳から15歳の小児においては新型コロナワクチンの承認が成人よりも遅かったため、現時点では2回接種を進めている最中といったところでしょうか。集計データでは12歳〜19歳でまとめられているので12歳から15歳だけのデータは見当たりませんでした。ちなみに12月13日現在、12歳〜19歳では2回済みが7割強といったところです。

また、ファイザー社は新型コロナワクチンの対象年齢を5歳以上に拡大するように厚生労働省に申請中です。

小児に対する新型コロナワクチンについて日本小児科学会が2021年6月16日に公表し11月2日に改定した提言の要旨は以下の3点です。

 

・子どもを新型コロナウイルス感染から守るためには、周囲の成人(子どもに関わる業務従事者等)への新型コロナワクチン(以下、ワクチン)接種が重要です。

重篤な基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の重症化を防ぐことが期待されます。

・健康な子どもへのワクチン接種には、メリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です。

日本小児科学会HPより

 

このうち、3つ目の健康な子どもへのワクチン接種については、慎重な姿勢と言ってよいでしょう。罹りにくく重症化しにくいが稀とはいえ心筋炎のような重篤な副作用もあるとなれば、慎重な姿勢になるのも仕方ないことかもしれません。

しかし、被接種者および養育者へ丁寧に説明することや、接種後のきめ細やかな対応を求めるなど、リスクコミュニケーションを重視している点は評価できます。リスクコミュニケーションが機能していたとは思えないHPVワクチンの二の舞いは避けて欲しいです。

 

さて、私には5歳以上12歳未満の子どもが2人おりますが、その年齢層へ新型コロナワクチンが認可されたら接種する方向で子どもと相談しようと思っています。

理由ですが、

1)心筋炎のリスクはCOVID-19罹患よりも低いと思われること

2)子どもにもlong COVIDがあること

の2点です。公衆衛生的観点ではないです。すみません。

 

1) 心筋炎ですが、N Engl J Med 2021;385:1078-90.にあるように、16歳以上ではワクチン接種の方が罹患よりも心筋炎のリスクは低いです。ただ、12歳未満のデータはないので「思われる」という表現にしています。

さらに、JAMA Cardiol. 2021;6:116–118. とJAMA Cardiol.2021;6:745–752.の2本の論文ではCOVID-19の軽症もしくは無症状症例でも回復後にMRIで調べると心筋障害を起こしていることが報告されています。これらも小児例ではありませんが、5歳以上12歳未満でも似た結果が出るのではないかと考えています。

 

2) 次にlong COVIDです。long COVIDは新型コロナ後遺症のことで、CDCでは「発症後4週以降も遷延する症状、あるいは遅発性に出現する症状」としています。

その症状は倦怠感、頭痛、注意障害、脱毛、呼吸困難感が多いが、かなり多様です。小児のlong COVIDの厳密な定義はないものの症状としては成人と同じです。

https://doi.org/10.1016/S2352-4642(21)00198-X

このイギリスからの報告では、28日以上症状が遷延する割合は5ー11歳では3.1%、12ー17歳では5.1%とされています。もっとも小児ではロックダウンの影響などでCOVID-19罹患歴がなくとも似通った身体症状を訴えることがあるため、注意は必要なものの小児においてもlong COVIDが少なからずあることは覚えておく必要があります。

実際に、私の外来に定期的に通院しているお子さんにもlong COVIDと思われる症状を呈した子がいます。

long COVIDを予防するにはCOVID-19に罹らないに越したことはないですが、Lancet infectious diseaseにワクチン接種がlong COVIDを減らすという報告がありました。

以上の2点が健康な子どもであっても新型コロナワクチンを接種するに値する理由と考えています。

 

 

参考URL:

国保健安全保障庁の

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1040076/Technical_Briefing_31.pdf

 

和歌山県健康推進課

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/041200/d00203179.html